陶芸家 Emui 中川笑美さん < First interview > | 後編
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前編では、
中川笑美さんが「料理が主役」という軸にたどり着くまでの道のりを辿りました。
後編では、工房で実際に器や試作を手に取りながら、
中川さんがもう一つの拠点として大切にしている徳島、
そしてその土地の景色や素材が、どのように器へと落とし込まれているのかを掘り下げていきます。
徳島の景色を、色として器に閉じ込める

中川さんの器には、それぞれ「色の名前」がつけられています。
それは単なる色味の区別ではなく、景色の記憶そのもの。
「この器は、霞石-KASUMIISHI-っていう名前をつけています。」
徳島の朝、
霧が立ち込め、輪郭が少しぼやけた景色。
その曖昧さを、色ムラやざらりとした質感で表現しています。
石のような静けさと、かすかな温もり。
焼きの加減で、グレーや淡いピンクに揺らぐ、奥行きある色に。
「徳島の朝霧の、白くぼんやりした感じを器に取り入れたくて。」
あえて均一にしない。
テクスチャーを残す。
そこに、中川さんらしい“余白”があります。
他にも、徳島の景色を「色」で表現している。
「藍霞-AIGASUMI-」

夜の山にかかる霞とまたたく星星をイメージし、
藍色に霧が溶け込んだような深くやわらかな色合い。
「焦霞-KOGAREGASUMI-」
秋の山の奥、朽ち葉や焚き火の煙をイメージし、
茶や緑、焦げたような黒が淡く重なり、ぬくもりを感じる色に。
「金霞-KINGASUMI-」
山の端を染める夕暮れの光をイメージし、
やわらかく輝く金色の霞を思わせる、艶やかな色味。
「料理が主役だからこそ、器は引き算でいたい。」
けれど、何も語らないわけではない。
器は、土地の空気を、そっと抱えています。
蕎麦の灰から生まれる釉薬——素材が巡るということ
もう一つ印象的だったのが、釉薬の話でした。
中川さんの器には、
徳島で育った蕎麦の“灰”を使った釉薬があります。
「父が関わるNPO法人「三好素人農事研究会」で育てられた蕎麦の灰を使っていて。
蕎麦の実から蕎麦を作る工程で出てくる不要な粉を、
器に使えないかなと思ったのがきっかけでした。」
蕎麦の灰は、すぐに釉薬になるわけではありません。
灰の調整のため、こんにゃく屋さんの工程を経てから、
再び中川さんのもとに戻ってきます。
「灰ってアルカリが強いので、
陶芸に使うには、そのままだと向かないんです。」
必要な場所で、必要な役割を果たし、
巡ってきた素材が、器の色になる。
「この循環している感じが、すごく好きで。」
捨てられていたものが、
土地の記憶をまとって、食卓へ戻ってくる。
素材の背景まで含めて、
中川さんの器は、ひとつの物語を持っています。
料理人の一皿が教えてくれた、器の新しい可能性
料理が好きで、器を作ってきた中川さん。
それでも、自分の想像を超える使われ方に出会う瞬間がありました。
フレンチの料理人とのイベントでのこと。
深い紫と青が混ざる器に盛られたのは、
イチゴとマスカルポーネ、そして柚子の香りを添えた一皿。
「正直、喧嘩するかなと思ったんです。」
けれど、鮮やかな食材が重なることで、
器の色はむしろ引き立ちました。
さらに、印象に残ったのが“香り”の話。
「この器は、香りが強いものが合うね、って。」
口がすぼまった形が、
香りを中に留め、食べる瞬間にふわっと立ち上がる。
「そういう視点は、自分にはなかったですね。」
家庭料理とは違う、プロの目線。
器は、見た目だけでなく、
“どう美味しく食べるか”まで関わっている。
使われることで、器は育っていく。
その実感が、次の制作へとつながっています。
「それでも、料理が主役」——色と使い方のバランス
中川さんは、カラーコーディネーターの資格を持っています。
色彩の知識は、器づくりにも生かされています。
「この色は、こういう料理だと少しくすんで見える、とか。」
すべての料理に万能な器は、ありません。
だからこそ、提案が生まれます。
「この色なら、こういう使い方がおすすめですよ、って。」
それでも、最終的に選ぶのは使い手。
「色が好き、っていう理由で選んでいただくのも、
もちろん嬉しいです。」
料理が主役。
けれど、器が“会話のきっかけ”になることもある。
中川さんの器は、
使い手の想像力に、そっと寄り添います。
器の外側へ。これからの挑戦

取材時、中川さんの手元には、
制作途中の“だるま”がありました。
普段は器が中心。
けれど今、あえてオブジェという形に挑戦しています。
「器とは違う角度で、自分を表現してみたいなって。」
掻落しの技法を、
別のかたちで活かしたいという思いもありました。
用途のないもの。
すぐに“使われる”わけではないもの。
「作家としての自分を、
もう少し表に出していきたい。」
料理が主役という軸は、そのままに。
けれど、表現の幅は、少しずつ広がっています。
元気に、欲求丸出しで。人気作家になります

インタビューの終盤、
中川さんは少し照れながら、こう言いました。
「頑張って、人気作家になります。」
そして、笑いながら。
「欲求丸出しで行かせていただきます。」
自然体で、笑顔で、
それでも歩みを止めない。
料理が主役。
それでも器には、作り手の景色が宿る。
d.Agoraは、Emui・中川笑美さんのこれからを応援するとともに、
わたしたち自身も、一緒に楽しめる「仲間」としてそこにいれるよう、
成長していきたいと思います。